
初めて鉄剤点滴を受けることになった日、
私は少し不安な気持ちで病院へ向かいました。
「今日、血液検査をして詳しく調べますので、
1週間後また来てください。」
よくある流れを勝手に想像していました。
だから診察室で
「では今日、点滴を始めましょう。」
と言われた時は驚きました。
健康診断の結果を見ても、
重度の貧血なのは明らかだから、
詳しい検査はもちろんするけれど、
治療は今日から始めましょう、
そういうことでした。
点滴は全部で3回。
この日受けたのは、
フェインジェクトという鉄剤の点滴でした。
当時の私は薬の名前も知らず、
「点滴で治療できるんだ」
ということだけで十分安心していました。
「今日は1回目なので、あと2回来てください。」
その言葉を聞いて、
「もう1回終わるんだ。」
そう思えたことも、少し安心でした。
「今日から点滴を始めましょう」
でも実は、この日は別の予定も入っていました。
歯医者のクリーニング
そして美容院。
パートが休みの日だったので、
予定をまとめて入れていたのです。
ヘモグロビン5.8。
そんな状態だった私は、
もちろん病院を優先しました。
歯医者はキャンセル。
美容院は…。
どうだろう。
間に合うかな。
こんな時なのに、
私の頭の中はそんなことを考えていました。
点滴と聞くと、
勝手に1時間くらいを想像していました。
だから
「どれくらいかかりますか?」
と聞いてみると、
「15分くらいですよ。」
えっ。
そんなに早いの?
思っていたよりずっと短くて、
なんだかホッとしました。
「これなら美容院に間に合うかも。」
そう思った自分に、
少し笑ってしまいました。
思っていたより、ずっと普通だった
だって、ついさっきまで
「入院かも」「輸血かも」
って大げさなシナリオを考えていたから。
点滴が終わると、
急いで駅へ向かいました。
電車の時間を調べて、
少し早歩き。
美容院になんとか間に合いそうと思って、
少しだけ小走り。
すると、
すぐに動悸がして、
息が上がりました。
「あ、そうだった。」
点滴をしたからといって、
すぐ元気になるわけじゃない。
体はまだ、
ちゃんと貧血のままでした。
結局、
歯医者には行けなかったけれど、
美容院には間に合いました。
守りたかったのは、いつもの日常
今振り返ると、
あの日の私は、
美容院へ行きたかったわけじゃない。
いつもの日常を送りたかった。
ただ、それだけだったんだと思います。
何気なく予定をこなし、
何気なく歩き、
何気なく一日が終わる。
そんな毎日は、
元気な体があってこそのものだった。
あの日、
初めてそんなことに気づきました。
元気な頃には気づかなかったことを、
私は少しずつ、
ゆらぎの中で教えてもらっているのかもしれません。
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